リキに捧ぐ

詩 中上健次 (直筆)  所蔵:一力千恵
広洋紙にマジックで引っかくような独特の文字体が連なる。
行間に新井英一がコードを書き入れている。
                
















 
               
               中上健次
 朋輩よ
 リキよ
 窓から海が見える
 長くのびた砂浜.風を受ける松林
 リキが好きだった景色と
 おまえが置き去りにした女房が言う
 打ち寄せるおだやかな波
 声をあげて波と遊ぶ子供たち
 空を舞うとんび
 優しすぎる風景
 充ち足りた素適な景色
 ただ胸が痛い

 博多から唐津まで
 窓からおまえの見た景色を見ていた
 リキの使ったダイスだと
 おまえが置き去りにした仲間が見せた
 ころころと転がるダイス
 音がやんで止ったのが3の目
 空を舞うとんび
 優しすぎる風景
 充ち足りた素適な景色
 ただ胸が痛い

 朋輩よ
 リキよ
 雪の時や
 月の時.花の時でなしに
 空を舞うとんび
 転がるダイスの3の目
 その時.おまえを想う
 ワルかったがワルになりきれず
 ただ風に吹かれ
 ころころと転がった
 おまえ.俺.俺たち

 優しすぎる風景
 充ち足りた素適な景色
 ただ胸が痛い













歌手の新井英一さん伊万里で熱唱ライブ

佐賀新聞         掲載日1995年12月06日 <自>写有


〈歌手の新井英一さん伊万里で熱唱ライブ〉

「清河(チョンハー)への道」で知られるブルース歌手新井英一さんが、唐津市の友人の死をいたんで作った歌「リキに捧(ささ)ぐ」を最新アルバムに収録した。男たちの友情から生まれ、その死から五年ぶりに作品として刻まれたこの歌を、新井さんは五日夜、伊万里市民センターで、友人を慕った地元若者たちが企画したコンサートで熱唱、六日夜には唐津市で歌い上げる。

この友人は音楽や芸術の道を目指す地元の若者を支援し続け、五年前、四十六歳の若さで亡くなった唐津市の一力干城(いちりき・たけき)さん。「リキさん」の愛称で慕われた一力さんは、映画の世界を志したが、助監督時代の事故が原因で体調を崩し唐津に帰郷。自分の果たせなかった夢を若い世代に託し、アマチュアミュージシャンたちに演奏の場
を提供してきた。
新井さんも十数年前、一力さんの招きでコンサートを開いたのをきっかけに、親交を深めてきた。一力さんの死を知り、友人の作家故中上健次さんと二人で唐津を訪ね、追悼のトークライブを開いた。
一力さんが愛した砂浜や松林…博多から唐津に向かう列車の車窓の風景から、中上さんは一力さんのために詩を書いた。トークライブの舞台で、一力さんの思い出を語る中上さんが声を詰まらせた時、新井さんが歌い始めたのが、その詩に即興で曲をつけた「リキに捧ぐ」だった。
RIKI HOUSE の窓(部分

「湿っぽい曲より、きれいな歌でリキさんを送りたかった」と新井さん。「きちんとした形でこの歌を発表したかった」といい、自身の思い入れの深い歌を集大成した最新アルバム「果てなき航路」に収録した。
一力さんの遺志を継ぎ、地域でコンサートを企画する若者たちによる今回の新井さんのステージは、五日夜の伊万里市民センターに続き、六日夜、一力さんが経営した唐津市のピザハウス「リキ」でもこの歌が演奏される。        
                                                                    戻る