#214 平成30年1月

謹賀新年

中里隆 80歳(2017年)
このページは女将が毎月更新して
唐津のお土産話やとりとめもない
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中里隆80歳、80個の壺





 戌年のお正月。明けましておめでとうございます。
さて、物騒な世界情勢はしばし忘れて、おめでたいお話を。
われらが中里隆先生は傘寿記念として、昨年11月に日本橋高島屋創立110年記念特別展としての個展に、世界各地で焼いた壺を80点展示されました。広い特設画廊に大壷がずらりと並んで圧巻でした。わたくしども夫婦もオープニングにお招きを受けて上京しました。
壺展のご報告かたがた、老人二人の『東京物語』(古い映画ですねえ)をお聞きください。
   上京最初の晩はアメリカから隆先生のお祝いに駆けつけたテリーとベンと合流、4人で、東京タワーの下に位置する豆腐料理屋に行きました。
料理もいいけど、建物が面白い。古い酒造所の建物を移築したり、新築で拡張したり。庭を囲んで贅沢な空間です。
お行儀のよい仲居さんが懇切丁寧に接待してくださった。ワンダフルでした。
   次の朝は根津美術館を訪問。テリーは日本美術のコレクターでもあり、とても喜んで見ていました。左からテリー、ベン、主人です。主人が一番ハンサムでしょ?
エ、何? なんか言った?
   その夜は新宿の「柿傳」にお招ばれ。
うっとりするような京懐石です。
   「柿傳」にその日集まったのは、隆先生の古い友人たち。まことに国際色ゆたかです。
私は後ろから2列目の左から二番目、顔が半分かくれている。よかった。若く見える。ホウレイセンとあごのたるみがみえない。
   オープニングの朝、開場と同時に飛び込みました。日本橋高島屋の通常の美術ギャラリーでは狭いので「特設会場」ができていました。
壺が80個並ぶと壮観ですよ。
   特に大きいものはこんなふうに置いてあります。荷造りして送るのに大変だったそうです。全部無事についてよかったと、息子の太亀夫妻が安堵していました。
   間に小さく見えるものでも、一個でみれば結構大きい壺なんです。
   入口にはアメリカ・コロラドの山中で撮影した仙人のような隆先生の近影が飾られていました。
   たとえばこの「叩き大壷」はW66.6 H60.7という大きさですが、一番大きい方ではないです。
   種類もいろいろで、テラシッジ、焼き〆、黒釉、アセロ釉、唐津南蛮、信楽焼〆、バウアースリップ、花の木焼〆、イエロースリップ、ナミア黒釉、練り込みしのぎ文、錆朱、長石墨釉、黄釉、灰釉、緑釉、天目釉、ブルーアセロ、青磁しのぎ、ライツグリーン、唐津刷毛目、斑唐津、唐津三島、絵唐津、絵刷毛目・・・というふうに多彩です。
   制作地はアメリカ・コロラド・アンダーソンランチ、アーヴァダセンター、アリゾナ、メサ、ユタ、アッシュヴィル、ノースカロライナ、デンマーク・スケルツコー、ドイツ、サンパウロ、エストニア、台湾、徳島市、東京都渋谷区、滋賀県甲賀市、土岐市、唐津市に渡ります。
80壺の制作は3年をかけたプロジェクトでした。
   展示会を見た日の夜は、尾山台のおすしやさん、「徳助」さんに行きました。このかたは、ある時築地の魚市場で偶然に知りあって以来の友人で、何度か洋々閣に来てくださいました。それで今度はわたしたちが訪ねて行きました。
唐津とはお魚の種類がちがって、珍しくて、おいしかったです。
   翌朝は宿から歩ける距離の靖国神社に参拝しました。朝まだ早いうちから人が次々に来ていました。
今は亡き文さんという韓国の友人が、日本政府の要人が靖国に参拝するのをとやかく言う韓国のニュースに対して、静かな口調で「どこの国の人にも自分の国を守るために戦死した人にお参りする権利はある」とおっしゃったのを思い出しながら境内を歩きました。
   おのぼりさんの最終日は何十年も憧れてついに念願かなったオペラです。テレビでしか見たことがなかった『椿姫』を、新国立劇場のオペラ座で見ました。
最初で最後かも、と思い切ってS席を奮発。舞台装置も演出も斬新でした。19世紀のピアノがどの幕でも真中に置いてあり、それ以外は意図的に斜めに垂らされた背景幕のみ。最終幕のヴィオレッタの死の床さえもピアノの上でした。イリーナ・ルングのソプラノは素晴らしかった。ロシア人だそうで。ミラノで活躍、一番のお得意がこの「椿姫」。
いい冥途の土産が出来たなあ、と、老夫婦は語り合ったことでした。ただし!ふたつみっつ横の席の高齢の貴婦人の香水によるテロで、私はひっきりなしにクシャミ、はなみず、涙・・・ おまけにそのゴージャスなおばあさまは身を乗り出してわたくしをおにらみになる・・・(なんて非常識な・・・、とお顔に書いてある・・・)
私は悔しくて、「どなたでしょうねえ、香水をひと瓶振りかけていらしたかたは?よほど加齢臭がひどくてらっしゃるのかしら」と言いたいところを、そこはそれ、上品な私はぐっとこらえるわけです。
それさえなければ完璧でしたのに・・・。あ~あ。

こういう風に今回の『東京物語』はThe End。
唐津にもどったらいつの間にかすっかり冬が来ていました。

皆様に感謝。本年もよろしくお付き合いください。いつまで続けられるか分かりませんが。

       
 

今月もこのページを訪れてくださってありがとうございました。またお会いしましょう。
                             
洋々閣 女将 大河内はるみ
 

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