#81
平成18年12月

このページは、色々な方にご協力いただいて、
唐津のおみやげ話をお伝えするページです。
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#1 御挨拶

こんにちは。
はや年末となりました。お元気でしょうか。今月は友人のご主人飯島國昭先生をご紹介します。飯島先生は長野県下伊那郡下條村にお住まいで、理科の先生でしたが、退職され悠々自適、とてもステキなナチュラルライフを送っておられます。ビオトープを作られ、自然保護の研究を続けていらっしゃいます。この元校長先生を私はメダカの学校の校長先生とひそかに呼んでいますが、うらやましいような生活を皆様にもお知らせしたくて、「書いて、書いて」とせがんでおりました。ようやく3年ぶりくらいに書いていただきましたので、ここに載せます。おたのしみください。お子様、お孫様に読んでいただけると幸いです。質問なども受け付けて、先生にお取次ぎします。では。
 



休耕田のビオトープ


飯島國昭

洋々閣のおかみさんから 記事を書いてほしい言われていました。長野県のものは合わないでは、と思っていました。が、ビオトープの移り変わりのようなもので良い とおっしゃられ、寄稿してみることにしました。以下の写真・文章どこか使えるところがあれば、使って下さい。


1 何でビオトープか


 私は 平成14年の3月まで、教職の身でした。田舎の百姓(升?)には程遠いですが30升か40升くらいは作れる土地があります。人に作ってもらっていましたが、その方が平成3年のとき事情で返してくれました。まだ勤務が10年ほどは残していましたので、自分で耕作するわけには参りませんでした。荒れるにまかせ年2〜3回草刈をしていましたが、アメリカセンダングサやガマの生い茂る水田にしていました。しかし、夏休みの折 草を刈っていましたら 小さなトンボがいることに気がつきました。

ハッチョウトンボです。 このトンボは1円玉に隠れる大きさです。現在の名古屋市千種区あたりにあった矢田の八丁目という所で最初に見つけられたことから付けられた名前のようですが、珍しいトンボです。米を作る人は大勢いますが、このトンボを守る人は少ない。米もトンボも命は命 この水田はハッチョウトンボも含め、色々な生物の命を守っていく田んぼにしよう。それが 動機で今日まできています。ビオトープという言葉はあまり好きではありませんが、今は一般的な言葉のようですので 使いました。



2 冬の様子

 写真は雪の後で撮ったものです。水の溜まっている所は、機械は一切使わず、手で泥や土を掬い上げ、浮島のようにしたり、通り道にしたりして池の部分を作りました。こうした水溜りにしておくと 色々な動植物がやってきて、一つの環境 ができるというのです。




 やめる2年くらい前から、休みの日などに完成をイメージしながら、だんだんと作っていきました。一番の心配は水で
す。幸い水利権はありますので、川から水は引いています。それに湧き水が出ますので、タンクに貯め 畑の野菜等への散水と兼ねるようにしました。


 本年の春大体イメージしていたものの輪郭がはっきりしてきました。













3 春を告げる動植物たち

 三月下旬になりますと、春をいち早く感じたタニシたちが動き始めます。

  


 このタニシは私の子どもの頃にはいましたが、返して頂いたときには居ませんでした。ですから、近くの村の水田と池から数匹をもらってきて放しました。オオタニシとマルタニシです。

オオタニシ マルタニシ
                

 この内、マルタニシは環境省・長野県ともに準絶滅危惧種に指定しています。

子どもの頃、長野県は山国でタンパク源に乏しく、春水田に水を張るころのタニシを味噌汁に入れて食べるのは、ご馳走でした。そんな味を懐かしむお年寄りの声も聞きます。私も、しっかり増やし、昔の味を楽しみたいものと、思っているところです。

 この他に、モノアラガイという貝もおります。この貝は漢字では「物洗貝」 と表します。貝が物を洗う訳ではありませんが、水槽に入れておきますと壁面 に付いた藻をきれいにしてくれます。貝類は歯で藻を食べるのでなく、歯舌という卸し板のような歯の列があって、それで削り取って食べるのです。そうしたことに因んで付けられた名前です。

 でんでんむしむし かたつむりお前の目玉はどこにある・・・と歌いますが、このモノアラガイの目はどこに在ると思いますか? そうです。三角のひらひらが2つありますが、その基に在ります。タニシも同じですが、これらは基眼目という仲間に属しています。

 ついでに貝を取り上げますと、カラスガイと言う貝もおります。この二枚貝は、全国的に少なくなって来ており、環境省では、準絶滅危惧種に指定しています。長野県では近隣の村の溜池の改修の折、800余の個体が生息していることが、4年程前に分かりました。貴重な貝をどうして貧弱なビオトープに入れているかと申しますと、5年程前からタイリクバラタナゴという写真のような魚を勤めていた学区の池から頂いてきて放してあります。そのときには、ドブガイという大きな貝を一緒に入れていました。

 これら両種はお互いに子孫を残す上で必要な仲なのです。タナゴの写真で左側は♂です。繁殖期になると目は赤くなり、体も青や赤が混じって鮮やかな婚姻色を示しきれいな魚です。右側は♀です。雌は人間と違い、化粧をせずに地味です。どなたです お尻にウ○コを付けてはしたないなんて思っている方は。これは産卵管です。この産卵管を貝の鰓(エラ)のなかに挿しこんで そこに卵を産み、10mm位の大きさまで育ててもらう習性があるのです。ですから、貝がいなくてはタナゴは増えません。一方カラスガイもドブガイも卵を産むのでなく、グロキジウムと言われる貝に似たようなものを産み出します。そのままでは貝になれず、タナゴなどの鰭(ヒレ)に20日ほど噛み付いて栄養をもらったのだけが稚貝になれるのです。グロキジウムは自分で泳ぐことはできません。写真のような一匹前の貝になるのは大変なことです。ドブガイはただ泥の中へ入れておけば良いかと思って放しておきましたら、2〜3年で死んでしまいました。

それでカラスガイは冬季は湧き水を貯めているタンクの中に入れて越冬させ、シーズン中はタンクの近くにかごに入れておくことで乗り切っています。タナゴは増えていますが、カラスガイの稚貝はまだ目にしていません。

 フナ・ドジョウなどもいますが、黒メダカも増やしています。メダカが見られなくなった、と新聞やテレビで報道されています。環境省・長野県共に絶滅危惧種に指定しています。私の村でも子どもの頃、学校帰りに田んぼにメダカが群れているのを見た記憶があります。しかし、今日では村内では目にすることができません。このメダカは、近隣の村の池から頂いてきたものです。よその県や、産地のはっきりしないメダカを増やして、川や池に自然保護の名の下に放し、問題にされることがあります。遺伝子撹乱となり、良くないと言われます。私もそれは避けたいと思いますが、絶滅させずに守っていくことも大切と思っているところです。現在おそらく1000匹以上が幾つかの群れを作って泳いでいます。メダカの学校は川でなく池の中で見られます。

 これまでは、意識的に係わった動物の紹介でしたが、周りからやってきて棲みついた動物を紹介します。お腹の赤いイモリです。貪欲に餌を食べる動物のようですが、春にはアカガエル・トノサマガエル・シュレーゲルアオガエルなどが卵を産みにやってくるので、餌にことかきません。タニシも子どもを産みます。湧き水もあり、水温が極端に低くならないこともあるせいか、年中いるようです。そんな貪欲な動物は・・・・と思わないで下さい。イモリが棲めるほど豊かな自然が復元していると考えると、いとおしくなります。

 写真の蛙がシュレーゲルアオガエル です。春先それは見事な蛙の合唱を聞かせてくれます。アマガエルじゃないかと思っている人がいるかも知れませんが、アマガエルは目の周りに黒いアイシャドウをしています。こんど見かけたら確かめてみてください。我が村にはモリアオガエルもいるようですが、残念ながらビオトープまではやってきてくれません。因みにモリアオガエルは樹上などにソフトボール大の泡の中に卵を産みますが、シュレーゲルアオガエルは、テニスボール大のあわを土のなかに出しその中に卵を産みます。

次はコオイムシです。漢字は「子負い虫」でしょうか。見てください背中にたくさんの卵を背負っています。これは♂です。♀がどういう状態で産み付けるのか見たことはありませんが、雄は文句も言わず赤ちゃんの虫になるまで背負ったままで生活しています。厳しいのは、人間社会だけではありませんね。






ゲンゴロウ クロゲンゴロウ

 ゲンゴロウとクロゲンゴロウもおります。どちらも流線型の形をしていて、後ろ足にはうちわのようにひろがる毛がついています。その毛をうまく使い素早く泳いで小魚などを食べます。メダカやトンボのヤゴなどが餌になっているものと思いますが、彼らが食べる以上にメダカが増える環境にしておけば、目くじら立てる必要はありません。環境省・長野県ともにゲンゴロウは準絶滅危惧種、クロゲンゴロウは長野県では絶滅危惧種に指定しています。

 ゲンゴロウと似ているけれど、体の色が真黒の虫がいます。この虫はガムシと言います。ゲンゴロウは幼虫も成虫も肉食性です が、ガムシは幼虫の時は肉食性ですが、成虫になると、草食性に変わります。ですから、水中での泳ぎかたものろく、動作もゆっくりしています。足には毛がありますが、ゲンゴロウのようにうち状には開きません。植物は逃げませんので、早く泳ぐ必用がないわけです。




 ガムシのもう一つ変わったことは、水中に卵嚢(らんのう)と言われる繭のようなものを作り、その中に卵を産むことです。その繭は風などで天地が変わらないように帆柱を付けています。繭は剥き出しではなく、水中の朽ち葉などに作って浮くようにしています。写真の棒のように真っ直ぐに上に延びているのが帆柱です。各虫たちが教えあうことなく、見事な繭を作り上げる様には驚きます。遺伝子に組み込まれているんだと言ってしまえばそれまでかもしれませんが・・・・・

 

もう一種紹介します。ミズカマキリです。陸のカマキリは捕らえた虫(時には♀のカマキリは♂を食べてしまうそうですが)をむしゃむしゃと食べているのをみかけますが、ミズカマキリの口を見てください。尖った針のようになっています。捕らえた小魚などに挿しこんで体液を吸うのです。コオイムシも同じです。

陸上では、セミがそうです。蚊やアブも同じです。まだ他にマツモムシやモノサシトンボ・ショウジョウトンボ・キイトトンボ・ムギワラトンボ等などのトンボもいますが、切りがありませんので動物はこれくらいに致します。

 今度は植物です。

 春を真っ先に告げてくれるのがワサビの花です。湧き水がありますので、お隣の村に自生しているものを数株頂いてきて植えておきました。根を取るのでなく、花や葉をお浸しにして食べるのが好きだからです。延びてきた葉と花を摘んで洗い、どんぶりのような器に刻んで入れ、熱湯をかけて砂糖をひとつまみ入れ ラップをかけて冷えるのを待つ。
呑み助にはもってこいの一品です。




 5月中旬になりますと、ワスレナグサが咲き始めます。近隣の村の小川の際にあったものを一株頂いてきて植えたものです。非常に繁殖力が旺盛で、現在では川から水を取り入れた所から、水の流れのように青い帯になって咲いています。

 ワスレナグサについては、ドイツの伝説が有名です。






 去る昔、一人の若い騎士が甲冑の鎧を着たまま恋人とドナウ河の岸辺を散歩していたそうです。

 そのとき、乙女が一束の青い花が水面を流れているのを見つけて、あの花が欲しいと騎士ねだったそうです。彼女にたのまれ、騎士は鎧のまま河に飛び込み花束の所まで行き、掴みました。しかし、思ったよりも流れが速く、体の自由を失い、力尽きて流れに巻き込まれてしまったのです。

 騎士は、自分の最後のときが来たのを悟り、力を振り絞って岸辺の恋人の足もとに花を投げ、「私を忘れないで」と叫ぶと流れの中に吸い込まれてしまいました。乙女は約束を守り、生涯その花を離さず、騎士を忘れずに、髪に飾り続けたということです。

花言葉は、「私を忘れないで・真実の愛」英名も、Forget me not だそうです。

自宅の前に作ったビオトープです。年中と言わないまでも、花も楽しみたいので、4年ほど前に園芸種のハナショウブを植えました。6月中旬頃から咲き始めますが、幾つかの島状に作った土山に株分けをして植え、楽しんでいます。

業者に造って貰ったわけではありませんので、垢抜けた庭園の美しさは無いかも知れませんが、翌年どんな感じで花をつけ、遠くからどう見えるかを考えるのも楽しく、年は取りたくないけれど、来春が早く来て欲しいと願っているところです。

スイレンも好きな花です。モネは57歳頃から睡蓮に魅せられ、晩年は睡蓮だけを描いたようですが、まだその域は分かりリません。が、眺めていて飽きない花です。白とピンクをある程度増やしていこうと思っています。



花言葉は 心の純潔・清純・信仰だそうですが、信仰が意外に感じます。しかし、古代エジプトではスイレンは太陽のシンボルとして神聖視され、「信仰」の花言葉が生まれたのだそうです。


このビオトープを作り始めた時から夢見ていたのが、サギソウ園にして楽しみたいことでした。それには球根を増やさなくてはなりません。試行錯誤をしながら4年目の今年は5〜600球の球根ができましたので、試しに120球程を畳半畳くらいの所に植えてみました。御覧のように、それなりのチッチャなサギの群れが舞うようになりました。来年は畳3畳分くらいのサギソウ園にしたいと思っています。このことも来年よ早く来いと、期待している一つです。
因みに、サギソウは環境省・長野県共に絶滅危惧種に指定されています。


来年のことを申しますと、もう二つあります。写真はササユリです。長野県の準絶滅危惧種に指定されている花ですが、大好きな花です。この花も退職を区切りとして何とか鉢植えにしたいと挑戦してきました。周りの土手に10本くらいは咲かせたいと思っているところです。また、ハスも咲かせたいと夢を追っていますが、本年は直径40センチ位の葉が20枚余出てきましたので、早く来い来いお正月です。




食材はワサビの紹介だけでしたが、クワイ・マコモも育っています。収穫の時期が近づいてきていますので、楽しみです。


 
いかがでしたか。 ステキな先生でしょ? うちの花守も先生に教わって、サギ草の栽培に成功しましたよ。ササユリはまだダメですが。そのうちきっと長野のササユリを九州で咲かせてみたいとがんばっております。
ではみなさま、ごきげんよう。よいお年をおむかえください。



今月もこのページにお越しくださって
ありがとうございました。
また来月もお待ちしています。


洋々閣 女将
   大河内はるみ


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